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2011.06.14 Tuesday / - / スポンサードリンク

海と、空。

常夏の太陽に煌めく黄金の海は島一面を覆い、折り重なった砂の波が地平線を埋め尽くす。
砂丘を横切る風紋を散らし、波間にたゆたう小舟が一つ。

「っふぅ……」
それは黄金色の世界の中でひときわ目立つ銀の猫。
身長の倍はあろうかというスプーン型の奇妙な器具を砂に突き立て、一息。

「掘っても掘っても砂ばかり、ってか」
目前の砂丘を切り取った平坦な一角は既にお茶会のひとつでも開けそうな広がりで、
砂の壁は猫が手にする宝の地図を肯定も否定もせず、ただただ無言。
太陽は依然として天頂、真白い綿雲が空に海に模様を投げる。

「ま、ここからよねっ」
銀の猫はひとつ呟いて立ち上がり、また砂の山に向かう。



半刻置いて。
再び砂に突き立てられたスプーンの傍らにしかし猫の姿はなく、
代わりに先程よりずいぶん広々とした砂丘の一角。
地面から僅かな角度で顔を出す角材と、それを跨いですぐそこに砂に埋もれた、日焼けした白木の小屋ひとつ。
覗き窓もなにもない質素な扉に続く低いタラップに残る砂粒と、まだ新しい足跡ふたつ。
辺りは再び陽射しに風、黄金色。動くものはなし。

色とりどりの光水晶が点々と灯る廊下に、木材のきしむ幽かな声。
人の気配は、足音ひそめて進む銀の猫ひとり。
「こんなに状態のいい遺跡なんて……半世紀ぶりの大発見ね」
長い廊下の両側にずらりと並ぶ部屋たちに片っ端から飛び込まんとする衝動を必死に抑え、
声を殺し足音を殺し。歩測目測、図面を走り書き。
吊り階段をふたつ降り、角を曲がると突き当たりにはひときわ立派な両開きの扉。
真鍮の取っ手を押すと重厚な扉が音を立てて開き、隙間からオレンジ色の光があふれ出す。
踏み込んだその足を迎える、声。
「帰ったか……って訳じゃあなさそうだな。客人とはまったく珍しいことで」



広々とした部屋を埋め尽くすは。絨毯、宝石、紋章旗、刀剣、地図、天球儀。様々な調度品。
大きな水晶硝子の窓とその展望を遮る一面の砂を背景に、
真紅を黄色で縁取った熱帯魚は膝下まで浮き上がり、帽子のつば越しに銀の猫を見下ろす。
「さて客人。こんな砂の中までいったい何をしに来なさった?」
片手には抜き身の宝刀。目は笑っていない。
「……学術的探索、なんて言ったら信じてくれるかしら?」
しばし静寂。

「見たところ商売敵ではないようだが、客人。
 悪いが取材は受け付けてないんでね。その羽筆と図面を置いてもらおうか」
じりじりと焼け付くような長くて短い沈黙を挟み、再び熱帯魚が口を開く。
銀の猫は一瞬だけ躊躇うも、その言葉に従い両手を上げた。
控えめな音を立て床に落ちた紙束に熱帯魚は一瞥をくれると、
「どうも。ところで……あんた、何者だい?」
宝刀の切先を少しだけ下ろし、問い。
「銀月宮の学徒、ティハ。遺跡追いよ」
「……なるほど。どうやらそのようだ」
銀の猫がマント留めの徽章を指し示すと、熱帯魚は刃を下ろしてくつくつと笑う。
「まさかここを掘り当てられるとはね。さすが専門家だ」

火時計の針がひとつ落ち。
「さて、そろそろ部下も帰ってくるんでね。
 先生にとっては残念かと存じるが、お引き取り願おうか」
「残念、だけど仕方ないわね。
 住人がいる限り遺跡ではない、って思っておこうかしら」
「心配には及ばないさ」
銀の猫がひとつしかない部屋の出口へと向かうと、
熱帯魚も黒檀の机をひょいと乗り越え、銀の猫の後ろにつく。
吊り階段をふたつ上り、光水晶の廊下を抜け。
白木の扉は音を立てて開いた。



蒼空の濃さと砂の輝きは依然変わらず、しかし風は先刻よりいくらか強く。
外に出た銀の猫はひとつ伸びをすると、向き直って一言。
「お邪魔してごめんなさいね」
「ま、話のわかる先生で助かったさ」
「それはどうもね」
タラップを降り、砂に突き立てたままのスプーンに歩み寄る。
途中、背後の賑やかな声。
「お頭ー、ただいま帰りましたぜーっ」
「うわ、なんで表に出てるんです?」
「あそこの学者さんが! そりゃ大したもんですねぇ」
「砂の中を探し回っちゃったじゃないですかっ」
「話は付けてあります? それなら安心だ」
「でもこの島とは当分おさらばですかねぇー」
振り返ると、熱帯魚の回りに金銀財宝を抱えた鳥、獣、竜が十数人。
扉から遺跡の中へと入れ替わり立ち替わり運び込む。
やがて全員が扉をくぐり、最後に熱帯魚がこちらを振り返って、目礼。
銀の猫が手を振ると熱帯魚もそれを見届けて、扉の中へ消えた。



不意に砂丘がうごめき、金のさざ波が勢いよく流れ落ちる。
砂のティールームはいともたやすく崩れ去り、あたりに煙幕が立ちこめた。
白木の小屋と角材も一瞬にして地の底へ消えたかと思われたが、
次の瞬間砂ぼこりの中から現れたは紛れもないその小屋と、背後に聳える高い高い三本柱。
その柱に渡された三対の水平柱には大きな白い布が張られ、砂を吹き払う風を受けて大きく膨らむ。
と、立て続けに足下の大地が激しく揺れ動き、砂丘の縁から砂に埋まっていた大きな角材が顔を出す。
角材のもう一方には船首があり、次いで砂の中から浮上してきた船体の上には砂を振り落とした甲板が、
そしてその甲板の上には低いタラップと先程まで白木小屋に見えていた艦橋の入口、
さらには純白の帆布いっぱいに風を受けた三連の大マストが堂々と天を衝く。
王冠と天球儀が描かれた大きな海賊旗をはためかせ、海賊船は砂丘を離れて空へと浮かぶ。
眼を丸くして見上げる銀の猫を尻目に、それはぐんぐんと速度と高度を上げて、
やがて遥か遠くの雲に紛れ、見えなくなった。



「そんなの……あり?」
後に一人残された銀の猫はしばらく呆然と空を見上げていたが、
「……あーあ、これじゃくたびれ儲けだわね」
やがて諦めたように笑うと、踵を返して運び屋の待つ岩屋へと向かった。

島一面の黄金の海は午後の風にうねり始め、砂漠に残された大穴も夕暮れ時には姿を消していた。



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ずいぶんほったらかしちゃいました(*ノノ)お久しぶりです……!

しばらく前に書いたもの。お題「砂漠」「猫」「熱帯魚」でした。
後ろふたつは種族なんでもいいじゃんとか突っ込まないでね!(((



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